2018年12月発売の『エメラルド冬の号』に掲載されていた、『世界一初恋 小野寺律の場合no.29』のネタバレ感想です。
19年春の号の感想はこちら!
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表紙
嵯峨先輩がソラ太を抱っこして、桜の木の側に佇んでいるイラストでした。
作中、「夢の中で先輩は後ろ姿しか見えなかった」という律のモノローグがあります。桜の木の下に佇む嵯峨先輩が描かれているシーンなのですが、律の言葉どおり嵯峨先輩は後ろ姿で描かれています。
その後、「それでも忘れることができなくて 振り向いてほしくて 俺を見てほしくて」というモノローグと、徐々に振り向こうとする嵯峨先輩が描かれるのですが、完全には振り向かずに終わります。
そして表紙。嵯峨先輩はこちら側を向いて立ってはいるものの、目を瞑っているのです。
律っちゃんは、嵯峨先輩=高野さんに【見てもらえなかった】のかな、なんて深読みしてしまいます。
余談ですが、嵯峨先輩と桜といえば、コミックス13巻に掲載された書き下ろしマンガ『高野政宗の場合no.1.5』が思い起こされます。
香川の祖母宅に植えられた桜の木を眺めながら、嵯峨先輩は居なくなった織田律のことを早く忘れられたらいいのにと願います。『小野寺律の場合no.25』で描かれた、桜の咲き誇るイギリスの学校で嵯峨先輩のことを忘れようともがいていた律っちゃんと重ねることができるお話です。
それぞれのお話で印象的に描かれている桜の花言葉が【私を忘れないで】なのもグッときます。
ちなみに、今回表紙および本編で描かれた桜の木の節や根の張りかたを見る限り、『小野寺律の場合no.25』の表紙で描かれたものと同じ桜の木のようですね。
イギリス編
コミックス13巻をお手元に置いた上で是非読んでいただきたい!
『小野寺律の場合no.25』で描かれたイギリス編の続きになります。
日常の描写もとてもいいのですが、個人的には律の夢に出てくる嵯峨先輩の描写が気になりました。
先程、表紙についてでも散々書きましたが、上記の描写について時系列で並べてみました。表紙については完全に主観です。
いずれのシーンもセリフやモノローグは律っちゃんで、描かれているのは嵯峨先輩ですね。夢の中の世界とはいえ、何も言わない嵯峨先輩にそわそわします。
①『no.25』本編(イギリス編)
セリフ→「先輩 待って 待って下さい」
描写→半身になってこちら(律のこと)を見ている嵯峨先輩が、背を向けてどこかへ行ってしまう
⇒この時点では忘れたいと思いつつ、「待ってください」と言葉で伝えている
②『no.29』本編(イギリス編)
モノローグ→「夢の中で先輩は後ろ姿しか見えなかった」
描写→桜の木の下に佇む嵯峨先輩。律の言葉どおり嵯峨先輩は後ろ姿で描かれている
⇒髪型を変え、尚と一緒に新しい記憶を上積みすることで嵯峨先輩の記憶を消してしまおうとしている頃
⇒嵯峨先輩に対し、手を伸ばすなど能動的な行動はしていない
③『no.29』本編(現在)
モノローグ→「それでも忘れることができなくて 振り向いてほしくて 俺を見てほしくて」描写→徐々に振り向こうとする嵯峨先輩。完全には振り向かずに終わる(最後の時点では高野政宗のようにも見える)
⇒❶両手で顔を覆い「忘れたい」律っちゃん(織田律)❷伸ばした手❸必死な表情で嵯峨先輩を見つめる律っちゃん(小野寺律)の順に描かれている
⇒「俺を見てほしくて」では現在の律っちゃんが描かれていることから、高校の頃から見続けた夢(=深層心理)がようやく進展したことがわかる
④『no.29』表紙
描写→嵯峨先輩はこちら側を向いて立ってはいるものの、目を瞑っている
⇒振り向いた嵯峨先輩は律を見てはくれなかった
⇒律の方を向いているため【律のことを見てくれている=律の望む嵯峨先輩(高野政宗)になっている】ように思えるが、目を瞑っているため【律が本当に望んだもの】ではない
(⇒絵的に④の対となるのが『no.25』表紙)
現在
気になったシーンについて、律っちゃんのセリフおよびモノローグをもとに考えてみました。
*「それが普通の ただの「上司」と「部下」で 俺が ずっと望んでいたはずのもの」
昨晩(『no.28』)、律っちゃんを無理矢理抱いたせいで様子のおかしい高野さんのことを、ただの上司と部下の関係のようだと感じた律っちゃん。
ここから物語が一気に動きます。
望んでいたはずの関係になったものの、【本当に望んでいたものとは違う】ことに気づけたのです。
高野さんが、自分の本当の想いとは裏腹に【律っちゃんが望んでいたはずの関係】になってくれたからこそ、本当に望んでいた関係がなんなのかわかるなんて、悲しいことこの上ない展開でもあります。
*「それくらいしないと 高野さんの顔を見ることができない」
夢の中では「俺を見てほしくて」と言っていた律っちゃん。現実ではとても能動的です。
自分でなんとかしなきゃいけない、という律っちゃんらしい考え方でもあります。
尚に流されがちだったからこそ、やるべきことはきちんとやって、その上で高野さんに向き合おうとする姿に胸を打たれました。
表紙やイギリス編の考察でも散々触れましたが、見る・見られるというところがお話の肝になっているように感じます。
*「握られた手が余りに優しくて」
『no.28』では手を握る強さが想いの強さとして描かれていたので、今回もその解釈でいくと、『no.28』の高野さんとこのシーンの高野さんとでは律っちゃんに対する想いが変わっていることになります。本当のところはともかく、表面上、高野さんは律っちゃんに対する想いに蓋をしてしまったことを伺わせる描写です。
律っちゃんが自分の気持ちに素直になった途端、高野さんが心に蓋をしてしまう。高校時代からそうですが、この二人は気持ちのベクトルが同じ方向を向くことができない運命なのかな、なんて思ってしまいます。
ただの感想
あえてふれませんでしたが、『no.29』は本当にとんでもないお話でした。ファンでよかった!と心の底から思ったくらいです。
2018年は世界一初恋刊行10周年記念イヤーだったので、原画展やコラボカフェなど様々な展開がありました。その締めくくりでこんなにも素敵なお話を読むことができて、とっても幸せです。
今年も何か、ありますように!
(担当:妻)
世界一初恋 ~小野寺律の場合13~ (あすかコミックスCL-DX)
- 作者: 中村春菊
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/05/01
- メディア: コミック
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セカコイ記事は他にも色々書いてます!
2019年10月1日 追記
世界一初恋は韓国語では「세계 제일의 첫사랑」というようです。
セカコイ記事の多くが韓国からアクセスされているので、海を越えてもセカコイファンの力は強いなって思いました!