恩田陸は中学生の時にめちゃくちゃ影響を受けてて、『三月は深き紅の淵を』の「人生で読んできた本が集まる本棚があったらよくない?」に感銘を受けて以来読書記録をつけてる夫です。
原作未読ですが、映画の宣伝が面白そうだったよね、ってことで夫婦で見てきました。
鑑賞して、感じて、考えるのにエネルギーを使うよい作品だったので、映画のすべてについて言及できてはいないです。
※物語の結末には触れてはいませんが、見終わった人向けの感想ってことでお願いします。
まず言いたいこと
妻:久しぶりにいい映画を観たなって感じ
夫:具体的には?
妻:音楽を扱うだけあって、表現が繊細だった。音と映像で心情が丁寧に描かれていて、映画じゃないとできない作品だな、と
夫:原作は本屋大賞と直木賞のダブル受賞で有名になっただけあって、かなりお客さんも入ってたよね。最近はちびっ子連れで見に来る映画ばかり見てたので、年齢層高い映画久しぶりだった。
妻:私はおっさんずラブ以来なんだけど、やっぱり小説の映画化だからかなり丁寧に作られていたように思った。原作が好きで観に来た人と、我々みたいに原作は未読だけど作家は好きで、それで気になってきた人もいるわけで、そういう人から受け入れられる作品にするのは、やっぱりかなりの丁寧さが必要だな、と。
登場人物
高島明石/松坂桃李
夫:松坂桃李が同い年ぐらいで、いわば二足のわらじを履く状態じゃない? この歳になるとあんまりそういうこと言ってられないからこそ、日常で焦りがある感じがリアルだった。 うまく感想が言えない奥さんに当たっちゃうとことか。
妻:あの空気感はすごく良かった。地に足のついた生活をしている者の音楽を目指していて、それが伝わってくる画面作りもそうだし、役者さんたちの演技も素晴らしかった。親子のほのぼのとしたシーンとか、メイン四人の中で唯一生活感のある人だったよね。
夫:ピアノの天才っていう生活感の対極にいる存在に挑むのってすごい勇気のある行動だよね。ちょっと芸術とは違うんだけど、自分は語学を色々やってて、それを結構自分のアピールポイントにしてるんだけど、東京外大にいるようなガチ勢の前では全然すごくないから、絶対戦おうと思わない笑
妻:私はそれこそ、芸術をやっていきたい人たちの中で揉まれたことがあるから、『天才になれなかった』桃李くん側の人間として観てしまったんだけど、天才に挑むのって自分の凡庸さを突きつけられるから本当に辛いよね。にも関わらず、仕事をして家庭がある状況で挑んでいく強さはすごい。
夫:でもこの物語は松坂桃李が踏み台にされて、天才たちの異能バトルで終わらないところが見ててよかったね。
妻:そうだね。天才はやっぱスゲーわ!みたいな安っぽい話じゃないからね笑
夫:きちんとお話の中で人々が生きていた。誰かが誰かを救って、その人がまた別の人を救って、というお話の作りがとても良かった。
栄伝亜夜/松岡茉優
夫:神童、栄伝亜夜の演技がすごかったね。狂気と紙一重のあの演技はすごかったわ。
妻:ただただ辛くてピアノを弾いているときと、楽しさを感じながら弾いているときの差がすごいよね。でもものすごく自然で、演技している感がないのが怖いくらいだった。
夫:『真田丸』のときの演技もちょっと狂気なところあったけど、こういう役ぴったりだなぁって思った。天才ゆえの、そうでない人にはわからない芯の強さが現れてるなって。
『あまちゃん』や『霧島、部活辞めるってよ』にも出てたし、結構好きな作品に出てるんだよな~
妻:新人の子もすごかったよね。初々しい感じというか、ちょっとたどたどしい感じが神童感を高めててすごく良かった。
夫:あの子が新人だってのにはエンドロール見るまでわからなかったわ。そうだね、新人であるがゆえにできた演技なのかなと思った。
妻:松坂桃李っていう上手い役者がいて、ハリウッドでも活躍するウィン君、大河にも出る松岡さんとキャスティングされたときに、異質感を出せるのは新人だったのかなぁと思ったり。でもめちゃくちゃ演技上手くて、言われないとわからないよね。
夫:あ、あの人って『レディー・プレイヤー・ワン』の「俺はガンダムで行く!」の人か。
印象に残ったシーン
夫:自分は審査員の斉藤由貴とトイレでで会うシーン
物語冒頭では、「審査員だから個々人についての感想はいわないよ」と言いつつ、栄伝さんが「昔神童と呼ばれていた自分に似ているから」って演奏についての感想をいうんだけど、あの時、トイレの鏡に映っていた斉藤由貴が若いころ(おそらく栄伝さんと同い年ぐらいの)なんだよね。ああいうちょっとした仕組みが好き。
妻:私は、何度も言うようだけど桃李君のシーン。お家の、倉庫みたいなところで奥さんにピアノを聞いてもらっているところがすごくグッときた。草臥れた空気感で、でも奥さんが選んだようなかわいい小物が置いてあって。その中で天才と戦う音楽を作っているんだと思うと、ものすごい物語があの一瞬で描かれていて、映像であれだけ語れる描写は本当にすごいと思った。
まとめ
妻:余韻がすごくて、観終わってしばらく経っても気をぬくと泣きそうになるくらい心に響いた映画だった。別に「御涙頂戴」な描写なんて一つもないんだけど、登場人物たちの心の揺れ動きが丁寧すぎるほど繊細に描かれていたから、観ていて引き込まれた。
夫:他の方もいうかもしれませんが、邦画おきまりのしゃらくさい恋愛があるわけでもなく、天才のバトルになるわけでもなく、まっすぐに人の描写に徹底しているところがよかったね。
原作本も映画終わりに買ったことだし、続編の短編小説も出てるみたいだから、まだまだ余韻に浸れそうです。