23年の長きにわたる連載が、ついに完結しました。
私が『風光る』に出会ったのは学生時代でしたので、歴としてはまだまだ新参者のファンです。
元々新選組が好きで、そこから『風光る』を知ってファンになり、という流れだったので、新選組の行く末は当然知識としてありました。
沖田さんの労咳がひどくなり、京都編が終わり江戸へ……と物語が進むにつれ、新選組の最後が近づいてきてしまう。
早く続きが読みたい、けど終わって欲しくない。
そんな矛盾した気持ちで、ここまで読み続けてきました。
いつもはコミックスで読んでいるのですが、44巻を読んで以降、コミックスが発売されるまでは待ちきれないと、ついに本誌を買ってしまいました。
『風光る』最終回は表紙と巻頭カラーです。
セイと沖田さんと一緒に描かれている花は桜でした。
桜の花言葉は「精神の美」ということで、誠の武士である二人にはぴったりだなあと思いました。
さて、以下は最終話までのネタバレを含む感想です。
未読の方はお気をつけください。
千駄ヶ谷の暮らしと黒猫・フクのこと
黒猫のフクは、セイと沖田さんの静かな暮らしにささやかな癒しを与えてくれる存在でした。
黒猫には厄を払ってくれるという言い伝えがあるとのこと。
上野戦争など、倒幕軍(新政府軍)による江戸進攻で平和が乱されていた最中、それでも千駄ヶ谷は穏やかでした。
最期のときを過ごす沖田さんに寄り添う、『妻』のセイと黒猫のフク。
沖田さんに命を分け与え、寂しくないよう一緒に逝ったフクは、沖田さんにとっても福猫であったし、後を追おうとしたセイの命を救ったという意味では、セイにとってもまた福猫だったのです。
激動の時代でありながら、外の世界とは切り離されたように穏やかだった千駄ヶ谷。半月もの間、沖田さんの思い出を感じながら過ごすことができたのは、『別天地』だったからなのでしょう。
福猫・フクの元となったのは、子母澤寛『新選組物語』p.7-10,221-226に登場する黒猫だと思われます。
ここで登場した黒猫は、斬ろうとしても斬れない、沖田的には気に食わない猫。嫌な面・癪さわる面と表現するくらいですからよっぽどです。衰えた自分を突きつける相手ですから仕方ないとはいえ、うーん、フクちゃんの扱いとは大違い……。
セイの役割
日野の義兄へ届けるようにとポトガラ(写真)と書付を託されたセイ。
史実でその役割を担ったのは新選組隊士・市村鉄之助でした。
鉄之助は無事その任務を果たしたのち、佐藤家の食客として2年ほど過ごしたと言われています。
セイも同じく、土方からの預かり物を佐藤家へ届け、それから2年間を佐藤家で過ごしたそう。
おセイちゃんの場合、佐藤家へ着いた時点で悪阻のような症状が出ていたので、留まったのは療養とお産と子育てのためだったのかもしれませんね。
妻になり、それでも武士であったセイ
ついに沖田さんと夫婦になれたセイですが、二人で過ごせた時間はほんのわずかでした。
残されたセイは、沖田さんとの約束を守り、函館の土方さんのもとへ。
約束さえ果たせば、セイはもう生き残るつもりはありませんでした。
隊士として死ぬか、自害するか。
沖田さんが亡くなり、新選組の仲間たちも逝ってしまったことを知ったセイは、ひとりで生きていくことなど考えてもいなかったのです。
それを踏みとどまらせたのが土方さんでした。
方法はどうあれ、「生き続けるのだ」とセイが思えるようになったことにホッとしました。
とはいえ、当の土方さんは武士の時代とともに散ること本望だと言い、戦って死ぬつもりでいました。
セイと土方さんとではおかれた状況が違いますから、仕方のないことなのですが……。
それでも、土方さんが望んだのは「絶望しての死」ではなかったことは救いでもありました。
セイちゃんは、生きる意味を見出せなくて死のうとしていたわけで、やっぱり土方さんとは違ったのです。
命を捨てず、武士として生きることを選んだセイは、明治8年になり藤田五郎と名乗る斎藤さんと再会します。
会津・如来堂での戦いの後、斎藤さんは会津藩士とともに謹慎。明治7年に、その後移った斗南を離れて東京に戻ってきました。
斎藤さんと一緒にいた女性は、妻の高木時尾さんでしょうか? 言及されていませんでしたが、時期的にそうなのかな、と思います。
本編、最期のコマは見開きページでした。
武士の子、というセイの台詞。
それはセイの息子の父親のことを指しただけではなく、セイ自身が武士であることを示しているようで、最後にまたぐっときました。
本当に、素敵な最終回でした。
『風光る』をより深く楽しむために
本編では掘り下げられなかったところについて、知識を補完したらもっと『風光る』を楽しめるんじゃないかと思い。
ファンの方にぜひ読んでほしいなあと思う作品・本を挙げてみました。
『北走新選組』菅野文
函館での新選組について描かれた作品です。
土方さんはもちろん、野村利三郎や相馬主計についても描かれており、最終回での海上戦についてより詳しく知ることができます。
『凍鉄の花』菅野文
斎藤さんが主人公の作品です。
戊辰戦争後について詳しく描かれているので、セイと再会するまでの斎藤さんの暮らしを知ることができるのでは。
『新撰組顚末記』永倉新八
永倉さんの本です。
生き残った永倉さんのその後を知ることができます。
本人が語った、というところでもうすごい資料なんですが、永倉さん視点で新撰組のあゆみを知ることができる一冊です。
引用・参考文献一覧
伊東成郎(平成19).新選組 二千二百四十五日 新潮社
子母澤寛(昭和52).新選組物語 中央公論社
菊池明・伊東成郎・結喜しはや(2012).土方歳三と新選組10人の組長 中経出版