オタク夫婦の「○○が好き」

30代オタク夫婦の語り場です。漫画・映画の感想がメイン。特撮と世界一初恋とBANANA FISHもアツい。そんな夫婦です。

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ドラマ『わたしの一番最悪なともだち』全話見た感想

23年8月から10月まで放送されたNHK夜ドラ、『わたしの一番最悪なともだち』の感想です。

蒔田彩珠さん目当てで見始めたんですが、ドラマから感じるところたくさんあったなーと思ってどんどん引き込まれていきました。

 

以下は全部見終わった人向けの感想なので、ネタバレも含まれてるのでご注意くださいませ。

 

 

何者でもない笠松ほたる

主人公、笠松ほたるが小学生のころから一貫して自分が何者でもないことにコンプレックスを抱いて成長してきました。

笠松さんが壁にぶつかった就活は「それで、あなたは何者ですか」を一生懸命説明しなければいけない多くの人にとって人生最初の難関だと思います。

(朝井リョウの『何者』はちなみに未読。映画も未視聴。絶対面白いと思うんだけど、まだ就職活動を自分の中で総括しきれてない感あるのでなんか辛そう)

 

彼女にとって対極の存在が「一番最悪なともだち」である鍵屋美晴。

笠松さんの印象に残る小学校時代の鍵屋美晴のエピソードが強烈ですね。

特に「そんな言い争いしてるうちに休み時間終わってしまいますよ~ほな」ってシーン。

あれは長い物には巻かれてる笠松さんには到底出せない衝撃かと。

 

笠松さんは鍵屋美晴を模倣することで「笠松ほたる(虚)」を演じた結果、就活をクリアしてしまうという偉業を成し遂げてしまうわけですが、

それは同時に(虚)をずっと演じ続けなければいけないというキツいものでもあるわけです。

仕事が始まれば生活の半分以上は職場で過ごさなければいけないわけですから、演じ続けるというのはしんどい。

(虚)で鍵屋美晴をエミュレートして走り始めたプログラムですから、徐々にオリジナルの笠松ほたる(便宜上(本)としておきますか)の影響を受けて(本)でも(虚)でもない3つ目の笠松ほたるが誕生してもよかったわけです。

3年も(虚)をやっていれば、「それも自分」と呑み込めていけたはず…?

 

しかし、ドラマではそうはなりませんでした。

転機だったのは同期の「わかちゃん」が就活の試験をズルして突破したことを悔やみ退職してしまったことでしょうか。

「私(本)も同じだよ(偽ってここにいるんだから)」と慰めると

「お前(虚)なんかに慰めてほしくない…!」と一刀両断される笠松さん。

3年間一緒に仕事してきたわかちゃんも後ろめたさを感じ続けて生きてきたでしょうから、この言葉の刃の質量はかなり大きかったと思います。同じ属性を持つキャラクターに特効、的な。

出会った頃はオンライン面接も終わった後の(虚)が完成された笠松さんでしたから、いきなりそれまでとは違う(本)を見せられても、

「こいつ、慰めるために降りてきやがった」と思われるのは当然の結果でもあります。

 

日粧堂の新商品開発で"天然"香料を否定されたことも(本)と(虚)がねじ切れてしまうことに大きく影響を与えてそうです。

自分を突き通したら企画は中断してしまったわけですから、それすなわち社会での(本)の否定につながると思います。

 

クリーニング屋である意味は

今回のクリーニング屋のように、こういった登場人物が集まるセーブポイント的役割を持つお話は好きです。

登場人物はみなクリーニング屋に集結していましたが、そもそもなんでクリーニング屋だったんでしょうね?

着飾るために身に着けてきた服を一度リセットできるからでしょうか。

みんなで虫になって自分をさらけ出すシーン、(虚)が東京で作った彼氏も参加し、参加者の本心を伝えあうことができましたが、

まぁ、彼氏と笠松さんは仲直りしてうまくやっていくんだろうなぁ。

 

聡美さんが一度自分の夢をあきらめたが、再び昆虫に携わることができるかもしれない、

と匂わせて物語から退場していったのは笠松さんにとって明るい未来が待っていると暗示させるよいシカケだったなと思います。

 

余談ですが、東京で作った彼氏の登場だけがこのドラマで好きになれなかった展開です。

登場唐突だったし、笠松ほたると鍵屋美晴の話であるならば、多分登場しなくてもよかったのでは、と思います。

公式HPによれば、当初のストーリーはもう少し恋愛要素が強かった、ということなのできっとその名残なんでしょう。

 

何者でもある鍵屋美晴

もう一人の主人公、鍵屋美晴パートは最終週に若干駆け足で示されましたが、どっぷりと何者かになれない人間の苦悩を描いた後にカウンターとしての何者にもなれる人間の苦悩は飲み込みにくくなっているかもしれませんから、逆にこのぐらいのほうがよかったのかもしれませんね。

妹なのに兄に対して頼りになる姉的ポジションを演じさせられて、それがうまく運んでしまっているというのは彼女なりの(本)と(虚)のねじれにうまく順応した結果なのかもしれませんが、

人は相手との関係性において、自分がどのように立ち振る舞うかを選択していきますが、何でもこなせる鍵屋美晴が、ニュートラルな笠松さんと対峙するときというのは、逆に素の自分を出して勝負しなければならず、

彼女にとってそれはそれは喜びでもあったと思います。

 

総評

ありのままの自分を保ち続けるのって、本当に難しい。

 

私たちみなそうだと思うんですが、期待される役割を一定期間演じ続けることができるのかというのを社会においては常に求め続けられます。

肩書もつけば、家族の中での立ち振る舞いも人生のステージと並行して変わっていきます。

 

主人公2人によって導き出された一つの地点って、私たちも参考にできると思います。

最初は無理をしても、少しずつ変わっていく自分を前向きに捉え、そしてありのままの自分をさらけ出せるポールを確認していく。

 

東京に戻っていく笠松さんが、次のカニ日和に自然な笑顔で鍵屋美晴と会えますように。

 

 

BGMもよかったですね。 てってて、てってて、てってててて♪ が好きです。