マドンナをリリーに迎えた2作品目の相合い傘を見ました。
見る作品がシリーズ中でどういった評価を受けているのかというのは、見る前に知ってしまうと鑑賞に影響がでるのでは、と思っているので見ないようにしていました。
鑑賞後、記事を書くにあたって色々と見ましたが、今作品は名作の評価を受けていますね。確かに面白かったです。
雨の中、柴又駅にリリーを迎えに行く寅さんのシーンは確かに名シーンでしたが、私はそれよりもサブエピソードでもある小樽でのシーンが好きですね。
それではいつもの三行感想からの…
昔の恋人と出会うということ
「小樽に来たかったのは、初恋の人が小樽の人だったからなんです」と、妻子と会社をほっぽりだしてスーツ姿で寅さんとともに旅するパパさん。
「いいじゃねえか」と能天気な寅さんと、「30年も前の男が急に出てきたって、なんも思いやしないよ」とリリー。
街の人に聞けば、初恋の相手は結婚したものの、夫を失い、街中の喫茶店で働いているということを知り、意気揚々と向かうパパさん…
いざ入ると、女手一つでやんちゃな息子を育てながら、学生のたまり場になっている喫茶店を切り盛りする姿を見て動揺したパパさんはコーヒーを注文したものの、すぐに退店してしまう。カバンを忘れたパパさんを追いかけてくるお相手…
寅さんとリリーの恋の行方とはほとんど関係のない小さなエピソードですが、『男はつらいよ』が毎度いいなぁ、と思わせてくれるのは、こういった誰かの人生を垣間見させてくれだなと思っています。
学生時代は同じような生活をしていた二人でしょう。5年、10年だって人の生活は変わるのに、30年経てばもちろん変わっているはずでしょう。
自分の生活が嫌になって飛び出してきたパパさんが、自分探しの旅の執着地点が彼女の働いている喫茶店で、たどり着いて旅が終わるというのは、当然の帰結だといえます。
追いかけてきた彼女に「もう一度お店に入って、少し話さない?」と誘われるも断り、逃げるように去っていくパパさん。そしてその姿を見つめる彼女。
きっとパパさんは喫茶店でコーヒーを待っている間に「ここで慰めあったって昔には戻れないんだ」ということを悟ったのではないでしょうか。
自分はいい家に住み、妻子にも恵まれている。一方…
こういう瞬間って、誰しもありますよね。
昔馴染みに久しぶりに会うと元気をもらえますが、その元気は一抹の寂しさも含まれていたりするじゃないですか。その寂しさをぐっとこらえて、ちゃんと明日からも生きていこう、って思えるようにすることが大事だなと感じます。
彼女はパパさんと何を話したかったんでしょうか? 昔話に花を咲かせたかったんでしょうか? それとも…
リリーさんが、お兄ちゃんのお嫁さんになってくれればな
この相合い傘を見ていて唯一疑問に残ったのは、「なぜ泊まる場所がなかったリリーはとらやではなく、さくらの家に泊まったのか」ということです。
居候? している友達の家に、友人が遊びに来ていて、急遽外へ出なければいけなかったリリーが電話したのは、さくらでした。
当然、今日泊まるところがないんだ、なんて話をすれば迎えてくれるに決まっているとリリーだって思うでしょう。
けれども、あえてとらやを選ばなかったのはどうしてなんでしょうか。
とらやの皆からも二人がくっついてくれればいいね、という言葉を受け、リリー自身も「結婚してもいいよ」とポロリとこぼします。
しかしここで結婚してしまったらシリーズ終了ですから、冗談はよせよ、と笑い飛ばして(そしてふって)しまいます。
似た者同士の男女はうまくいくかもしれないし、うまくいかないかもしれない。
見どころ? メロン騒動
もらったメロンを切るのに、寅さんのことを勘定に入れずに切ってしまいひと悶着。
wikiによれば今作が初登場のシーンのようですね。これ、今まで見た作品の中でもあったと思うんで、製作者側としても「当たった!」と思ったことでしょう。
確かに、このメロン騒動は面白かった! とらやのみんながまるで演劇のようにしまった!と顔を見合わせ右往左往する姿に笑わせてくれます。毎度寅さんはかわいそうではありますけどね笑 これをきっかけにいつも旅に出てしまいますし。
頭数に入れてもらえないことについては、寅さん自身だって本当はいつ帰ってくるかわからない自分を入れないのは仕方ないことだっていうことはわかっていると思うんですが、それでも
「ここが自分の居場所だから、旅に出られる」という気持ちを具現化するものがメロン騒動なのかな、と思います。自分は数えられるべき人間なんだ、いつでも帰ってこれる安心感が長旅への誘いなのでしょう。